車の屋根にスタバのコーヒー

車の屋根にスタバのコーヒー

アメリカで生活していると、不思議な光景に出くわすことがよくある。

その一つがこれ。「車の屋根にスタバのコーヒー」。
車体の屋根にスタバのコーヒーを乗せた状態で公道を走行する様である。

車に乗り込む際に一時的にコーヒーを屋根に置いたが、それを忘れて放置したまま走り出してしまったのだろう。日本人からしたら「まさかそんな」と思うが、これがけっこうよく見かける。しかも絶妙なバランスでコーヒーを乗せたまま、うまく走行しているのだ。初めて見た時は見慣れぬ光景に思わず二度見した。最近では慣れたもので、ああ、またやっちゃったんだな、などと思いながら微笑ましく眺めている。

おそらくこれは、車社会のアメリカでは “あるある” なのだろう。

最近、この事象を描いたコマーシャルを見た。Allstateという保険会社のコマーシャルで、「The safer you drive, the more you save(安全に運転すれば、お金もよりセーブできる)」というキャッチコピーが最後にくる。

エディット・ピアフによる『水に流して(原題:Non, Je ne regrette rien)』の優雅なメロディをBGMに、車の屋根に置き去りにされたさまざまな品が映し出される。プルプルと揺れるプディング、恐竜のオブジェ、鉢植え、ファーが風になびくふわふわのスリッパ……。そして、金魚が1匹入った金魚鉢まで。どれも危なっかしくズルズルと動きながら、なんとかそこに留まっている。

通りすがりの男性は金魚を見て心配そうに手を振り、隣の車両を走る車に乗った少女は怪訝な顔で車の上の物を見つめる。そして、目的地に到着した車から降りてきた男性が歩き出した瞬間、車の上に金魚鉢を置いたままだったことに気づいて立ち止まる。慌てて振り返るとそこにはまだ金魚鉢が乗っており、ホッと安堵して取りに戻るというストーリーだ。

私は、このコマーシャルを一度見て大好きになった。

車の屋根に取り残された品々が走行中の揺れでグラグラと落ちそうになりながらも、必死ですがりつく様子がなんとも言えず可愛らしい。隣の車両を走る車の中の少女の現実を疑うような表情も最高だ。そして、エディット・ピアフのなんとも平和な感じが拭えないBGMが絶妙なのだ。

きっと多くのアメリカ人がこのコマーシャルに共感しているのだろう。

話は少し変わるが、アメリカでは季節に合わせて車にデコレーションする人がけっこういる。たとえば、ハロウィンの季節になるとトランクから人の足(もちろん作り物)がはみ出ている車を見かけたり、クリスマスが近づくと正面を顔に見立ててトナカイのツノを2本生やした車を見かけたり。こういう遊び心を持った人が多く、この国は陽気な国だなと思う。

日本ではデコレーションしている車をあまり見かけないが、みんなこういうことをすれば気持ちもより盛り上がるのではないだろうか。