江戸時代の鉱山の面影を伝える世界文化遺産・石見銀山へ
- 2018.01.17
- 島根/Shimane
島根県の中部に位置する大田市には、戦国時代後期から江戸時代にかけて大量に銀が採掘された石見(いわみ)銀山がある。全盛期には年間約38トンも産出されたといわれており、当時世界の産出銀の3分の1を占めていた日本銀の大部分は、ここ石見ものだそうだ。そんな当時の繁栄を物語る遺跡が今も良好に残されていることから、平成19年には「石見銀山遺跡とその文化的景観」が世界文化遺産に登録された。そんな石見銀山の見どころを紹介する。
世界遺産に登録されているのは全部で14カ所
世界遺産として評価されたポイントは三つ。ひとつは、石見銀山で生産された銀がアジアだけでなくヨーロッパ諸国との経済的かつ文化的な交流をもたらした点。ふたつ目は、採掘から精錬までが小規模で行なわれていたため、鉱山開発や銀生産に関わる遺跡が良好に残されている点。三つ目は、集落も含めて遺跡が自然環境と一体となった文化的景観を形成しており、環境に配慮して自然と共生した土地利用が今に伝えられている点だ。
構成資産に含まれているのは、石見銀の採掘、精錬、運搬、積み出しなどを行なう「銀鉱山跡と鉱山町」、積出港であった鞆ケ浦(ともがうら)や沖泊(おきどまり)と港町として発展した温泉津(ゆのつ)などの「港と港町」、そして、鞆ケ浦道や温泉津沖泊道といった「鉱山と港をつなぐ街道」の14資産。石見銀山には「間歩(まぶ)」と呼ばれる銀を採掘する坑道が600ほど確認されており、遺跡の見どころとなっている。
サイクリングで遺産めぐり
石見銀山へは、山陰本線の大田市駅から石見銀山世界遺産センター行きのバスでアクセスできる。まずは「石見銀山世界遺産センター」で遺産の概要を学ぼう。館内には模型や映像、レプリカ、出土品などが展示されており、石見銀山の歴史や仕組みを知ることができる。
基礎知識を頭に入れたら、さっそく遺跡めぐりへ。遺産に指定されている範囲は広いが、数カ所でレンタサイクルできるので遺跡散策には自転車を利用しよう。一番の見どころである龍源寺間歩までは、大森地区の町なかから緩やかな坂道を上って自転車で20〜30分ほど。
周囲はだんだんと家並みから木が生い茂る林へと景色が変化していき、行き着く先は一般公開されている唯一の坑道跡、龍源寺間歩だ。江戸時代には約600メートルも開掘されていたという大坑道は、昭和18年まで約230年間も開発されていたそう。現在も壁には当時のノミの跡がそのまま残っている。
間歩から大森地区の町なかまでは、下り坂なのでラクラク。道路沿いには精錬所跡や吹屋跡、番所跡などの古い建物や史跡があちこちに残っている。お茶処やみやげ物店などもあるので、のんびりと休憩しながら下るのがいいだろう。
麓まで下ると、今度は大森地区の町なか散策。この一帯は武家屋敷や町屋、代官所跡などが今も残っており、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような雰囲気だ。当時の繁栄の面影を残した多くの建物が点在しているこの町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。銀山で亡くなった人々の霊と祖先を供養するために五百羅漢を安置している羅漢寺や、現存する屋敷内で当時の生活が再現された江戸時代の豪商・熊谷家住宅、代官所地役人であった河村家の旧宅など、 見どころは多数。
ひと休みにおすすめなのが、町の中ほどにある「群言堂(ぐんげんどう) 石見銀山本店」。約150年前の旧商家を改装した店だ。店内にはギャラリースペースのほか、服や雑貨を扱うショップとカフェを併設している。カフェでは地元の食材を使ったランチメニューやスイーツなどを提供。昔懐かしい雰囲気のインテリアや緑生い茂る外の風景に心がほっこりする、癒やしのスペースだ。
そのほかにも名物のお菓子などを扱うみやげ物店やおしゃれな雑貨がかわいいショップ、レトロ感たっぷりの理髪店など、右に左に興味は尽きない。じっくりとめぐればめぐるほど、興味深い建築やモノに出会えるだろう。
宿泊は、人気の湯治場「温泉津温泉」へ
石見銀山を訪れたら宿泊地としておすすめなのが、大森地区から車で20分ほど離れたところに位置する温泉津(ゆのつ)。ここも世界遺産の構成資産のひとつ、石見銀の積出港にほど近い港町として栄えた場所だ。この町の魅力は何といっても温泉。約1300年前に発見されて以来、湯治場として人気の高い由緒ある温泉地だ。入浴すると肌がスベスベになるといわれ、今も多くの観光客が訪れる。
宿での入浴も良いが、町に2カ所ある外湯「元湯」「薬師湯」もぜひ立ち寄ってほしい。これらは地元民からも愛されている共同湯で、レトロな外観の趣ある建物が特徴。薬師湯は全国でも数カ所しか存在しない、温泉としては最高評価のオール5を認定された天然温泉として知られている。薬効が極めて高く、万病に効くといわれるほど。入浴後は屋上のテラスでゆっくりコーヒーを飲むのも一興だ。
隣には薬師湯の旧館である木造の洋館が、現在はカフェ「内蔵丞」として運営されている。大正ロマン漂う建物の内部を飾るのは、上品なアンティーク調のインテリア。江戸時代の奉行飯や自家製カレー、特製コーヒーなど、ここでしか味わえないメニューがずらりと揃う。
すぐ近くにある元湯は約1300年前から続く古湯。こじんまりとした建物の中は歴史を感じる古い内装だ。こちらも薬効が高いことで知られている。特筆すべきは湯の温度。中に入ると、ぬるめの湯船と熱い湯船がある。ぬるめの湯もそこそこの熱さだが、熱い湯はびっくりするほどの激アツ! 筆者も挑戦したが、足の裏がまさにグツグツと茹でられているような熱さで1分も耐えられなかった。同じ時間に訪れていた地元のおばあちゃんの「この熱さがいいんだよ」と激アツの湯船にゆったりと浸かる姿には完敗。
温泉津温泉の町は、夜になるとほんのりと明かりが点り、神隠しに遭いそうな幻想的な雰囲気が漂う。町内では毎週土曜の夜に、石見地方の伝統芸能である石見神楽の公演も実施されている。勇壮な舞いをぜひ見てみよう。
旅行雑誌、情報誌のフリー編集者兼ライター・フォトグラファー。人種や文化の違いに興味があり、世界中の国々を旅行しては、その地で見た美しい風景や人々、おもしろいと感じたものを写真に収める。世界遺産検定1級所持。
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