アメリカ大統領選に思うこと

アメリカ大統領選に思うこと

2020年11月7日、5日間の大接戦を経て、トランプ氏を押しのけて第46代アメリカ大統領が民主党のジョー・バイデン氏に確定した。テレビでは、アメリカ各地で湧き起こる歓喜の声が映し出された。

 

 

今回の大統領選は今後の世界経済にも大きな影響を及ぼすものとして、アメリカ国内のみならず世界中から注目を集めた。どちらが政権を握るかによって今後の動きが大幅に変化するとされ、アメリカ国民の関心は最上級に高まり、投票率も国内史上最高記録となったそうだ。

私自身は選挙権は持っていないが、アメリカに住む人間として、ご多分に漏れず、11月3日以降はテレビにかじりついて行く末を見守っていた。とはいえ、心持ちは客観的に興味本位で見ていたことは否めない。アメリカ在住という点では当事者とも言えるが、市民権があるわけでもなし、いざという時は日本に帰国するという選択肢もあるので、本当の意味での当事者とは気の入れようがまったく異なるだろう。

そんな第三者的な目線で見ていた感想としては、とてもおもしろかった、ということだ。おもしろかったというのは決して娯楽的な意味合いで言っているのではないので、誤解しないで欲しい。見応えがあった、とても興味深かった、ということが言いたいのである。

正直、これほどしっかりとアメリカ大統領選を最初から最後まで見届けたのは今回が初めてだった。3年前までは日本で生活していたので、そこまで興味関心がなかったのだ。そして、日本の総裁選とアメリカの大統領選がどれほど異なるかを目の当たりにした気がする。

今年は異例の注目度だったとはいえ、アメリカではこれまでも民主派と共和派の間での衝突が常に起こってきた。もともと全米は州や人によって二極化され、州同士の衝突や、場合によっては家族内での分裂すらも発生する。それほど人々は政治に敏感なのだ。なぜなら大統領の方針に、自分自身の今後の生活が直接左右されるという人が少なくないから。大統領選とは他人事ではなく、自分自身のより良い将来を考えるうえでとても重要なのだ。

 

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一方、日本ではこのようなことは起きない。もちろん、2大政党制であるアメリカに対して日本は多党制なので二極化することはないという事実もあるが、日本ではアメリカほど派閥間での争いが白熱することもないのである。理由は、日本では政権を握る政党によって、アメリカほど劇的に世の中が影響を受けることはないからだ。自民党が政権を取ろうが民主党が政権を取ろうが、多少の変化はあっても国民一人一人の人生が変わるほどの大きな変化なはい。

それは、国の歴史的背景がまったく異なるのだから当然だろう。

日本は島国であり、他国からの侵略や支配も大きく受けず、日本独自の国を築き上げてきた。長い歴史を持って育んできた国であり、確固たる土台がある。一方、アメリカはヨーロッパからの移民によって始まった国であり、世界中からの移民で成り立っている国だ。アメリカという国としての歴史は浅く、国独自の伝統文化や習慣があるわけでもない。世界経済を動かす大国とはいえ、確固たる土台がないから自分たちで国をつくっていかなければならない。そして、多民族・多文化に対応するために自由な国づくりを必要としている。だからこそ、人々はより当事者意識をもって国の政治に関わっていく。

今回の大統領選の行く末を見ていくうえで、どちらの候補者を選ぶかは単純ではなくかなり複雑な状況も絡み合っているのだなと思った。選挙権を持った私の知人に、「トランプは好きではないが、もしバイデンが大統領になったら新型コロナウィルスの対策がより慎重になる。アメリカの経済が再度滞ったら自分の勤めている会社の倒産リスクが高まってしまう。本当はトランプには投票したくないが、やむなく共和党に投票した」と言っていた人がいた。ただどちらの候補者を推したいという自分の本心だけで選ぶのではなく、今後の状況も推測したうえで、たとえ自分の意思に反していても必要と思うほうに投票するのである。

大統領によって国の方向性が大幅に変わってしまうというのは、厄介で大変なことだと思う。ただ、大統領選を見ていて、アメリカという国をある意味羨ましいと思った。

アメリカ国民は一人一人が自分たちの国の未来をしっかりと考え、どうにかしたいと思い行動に起こしている。私たち日本人は、ここまで日本という国を想っているだろうか。私自身は日本国民として選挙には必ず投票しに行っていたが、国の未来を真剣に考え抜いて投票していたかと聞かれると、自信を持ってそうだとは言えない。国民として「投票すべきだから」していたに過ぎない。最近では日本における若者の政治への関心はどんどん薄れており、「選挙離れ」という言葉にもあるように選挙に行かない若者が増えている。

自分たちの国のために、これほど熱くなれるというのは素晴らしいことじゃないか。