日本フィギュアスケートのヒーロー、高橋大輔

日本フィギュアスケートのヒーロー、高橋大輔

2019年12月18日、全日本フィギュアスケート選手権2019が始まった。

アメリカに住んでいる私にとって、大会の生中継を見ることは難しい。それでもどうしても見たかったのは、ご存知の通り、我らの高橋大輔選手がシングルとしては最後の競技大会出場となるからだ。

日本の男子フィギュアスケート界を牽引し盛り上げた先駆者といっても過言ではない彼と私が同い年ということもあり、勝手ながら親しみをもってずっと応援してきた。そんな高橋選手のシングル最後の演技、これはもう見逃すわけにはいかない。リアルタイムではなかったが、私も御多分に漏れず大会映像を観覧した。

いやはや、やはり高橋選手は素晴らしい。このひと言に尽きる。私のようなフィギュアスケートに何の見識もない一般人が何を偉そうに、と思われるかもしれないが、ただの素人の感想として読み流してもらえれば嬉しい。

まずは、12月20日に行われたショートプログラム。この高橋選手のプログラムが、彼らしさが出ていてとても良かった。射抜くような鋭い瞳で始まり、始終、息つく暇もないような激しいステップが続く。細かいステップ、テンポの良いリズミカルな振り付け、絶妙な溜め具合、指先や頭の先まで行き届いた美しさなど、すべてがとにかく素晴らしかった。

高橋選手の演技が始まった直後から、会場からは手拍子が湧いた。演技の見せ場では歓声が上がり、解説者までが声を高ぶらせる。高橋選手自身も実にのびのびと、楽しそうに氷の上を舞っていた。このショートプログラムは、彼がどんなに人々から愛され、支持されているかがうかがえるパフォーマンスだった。

解説者が「彼にしかできない演技」と言っていたが、本当にその通りだと思う。高橋選手の演技にはストーリーがある。ドラマがある。そして、ほかの日本人選手にはないセクシーさがある。とにかく一瞬足りとも目が離せなくなってしまうのだ。まさに観客を惹きつける、「魅せる演技」ができるエンターテイナーだと思う。

ショートの後のインタビューでは、晴ればれとした表情で受け答えをしていた。全日本選手権という戦いの場ではあるが、彼にとってはシングル最後の舞台。そんなほかの選手たちと少し違った心境であることも、彼に振り切ったのびのびとした演技をさせた要因の一つなのだろう。

Advertisement

そして、12月22日のフリー。ジャンプはなかなかうまくいかなかったが、やはり最大の見せどころであるステップシークエンスは素晴らしく、惹きこまれた。高橋選手のステップは、今も変わらず「世界一」だと思う。演技が終わった後、スコアが出るまでの間には会場全体から「だいちゃん」コールが鳴り響き、私も不覚ながら涙をこぼしてしまった。

フリーの後のインタビューで「パフォーマンスはボロボロだった」と悔しそうな表情を見せながらも、「僕らしい」と笑う姿はどことなく晴れやかだ。彼の柔和な笑顔やときどき見せるひょうきんな表情、そしてベテランの立ち位置にいながらもいつまでも周囲に対して謙虚な姿勢は、愛すべき高橋選手の大きな魅力といえる。

高橋選手は来年からアイスダンスへと転身することが報じられている。一度引退したにもかかわらず、復帰して再度挑戦しようというその向上心、そしてこれからはアイスダンスという新たな扉を開く意欲。常に新しい目標を見つけて挑戦し続ける探究心とその姿は、つくづく素敵だなぁと思う。今後の活躍も楽しみだ。

高橋選手ばかり贔屓するのも良くないので、ほかの選手にも触れておこう。

宇野昌磨選手は、今後の活躍に期待している選手の一人だ。別に私に限らずともみんな期待しているだろうが。彼の演技には安定感があり、フォームが美しくジャンプも安心して見られる。

高橋選手とは異なるが、彼もまた「魅せる演技」ができる選手だと思う。彼のパフォーマンスは、観客に訴えるものを感じさせるのだ。来年2月の世界選手権、そして2022年の冬季オリンピックに向けてどんな成長が見られるかが楽しみだ。

そして、羽生結弦選手。彼は手足が長くスラッとしてスタイルがいいので、演技をする姿はいつも美しい。専門的なことは分からないが、私のような素人が見ても技術的な面で素晴らしいスキルを持っていると思う。繊細で儚げな雰囲気は彼の魅力の一つだ。

ただ、彼の演技には高橋選手や宇野選手のようなストーリーやドラマがあまりない。こんなことを言っては羽生ファンに怒られてしまうかもしれないが、私個人としては、高橋選手のような魅せるスケーターのほうが見ていておもしろい。

勝手にいろいろなことを言ってしまったが、皆さんそれぞれ魅力がある。今後のフィギュアスケート業界、とっても楽しみだ。