愛すべきコロラド Vol.1

愛すべきコロラド Vol.1

4月のコロラドは気まぐれだ。
朝、雪が降ったと思えば、昼には一面の青空に眩い太陽がさんさんと輝いていたりする。地元の人々にさえ予測不可能なほどコロコロと表情を変えるコロラドは、アメリカ大陸を縦断する雄大なロッキー山脈の通り道。なかでももっとも標高の高い地域に位置し、豊かな自然と暮らしの資源に恵まれた州だ。

初めて訪れた時、私はすぐにこの土地が大好きになった。ロッキー山脈が作り出す自然の造形美はもちろん、それが人々の暮らす町の目と鼻の先にあることが、限りなく素晴らしく感じたのだ。自然と隣り合わせの暮らしは地元の人々にとっては当たり前のもので、何ら特別なことではない。だが、都会に生まれ都会に育ち、自然の営みにこのうえなく憧れを抱き続けてきた私にとって、これほど素敵な環境はなかった。

旅の始まりは、コロラドの州都デンバーから。州内一の大都市であるデンバーは、ここ数年で住みたい町の上位にランクインしているという。19世紀頃に建てられた西洋建築が今も多数残っており、レンガ造りの建物が軒を連ねる町並みは美しい。

デンバーは、ここ数年で急成長している。歴史的な建築物をリノベーションして再利用し、多くの企業やショップを呼び込んでいるそうだ。歴史的建造物も見どころだが、有名な建築家が手がけた近代建築も多い。この美しい町並みに惹かれて、ビジネスの拠点として進出してくる企業も増えているという。

デンバーに住む人々に聞くと、「この町は常に変化し続けている、エキサイティングな町だ」と話す人が多い。最近では著名なオーナーシェフのレストランが増え、グルメな町としても注目されているほか、アートにも力を入れている。

町なかを歩いていると、あちこちに彫刻が展示されていることに気付くだろう。アメリカ先住民のアート作品コレクションとしては全米最大ともいわれる「デンバー美術館」や、恐竜の化石から最先端の宇宙科学まで学べる「デンバー自然科学博物館」、家具や陶器などの装飾品のコレクションが素晴らしい「カークランド美術館」など、デンバーには美術館や博物館が多い。

ダウンタウンの北西に位置するライノ(RiNo = River North )と呼ばれるアート・ディストリクトは、最近人気が高まっているエリアだ。町の至る所で壁に描かれたウォールアートを見ることができ、ユニークなギャラリーも点在している。数年前からは年に1回アートフェスティバルも開催されており、ウォールアートが一斉に描き変えられるのだそうだ。

デンバーに3日ほど費やした後、北西にあるボルダーという小さな町へ移動した。このボルダーという町には思い入れがある。というのも、私が学生時代に1年間留学生活を送ったコロラド大学ボルダー校がある町だからだ。私がコロラドを大好きになったきっかけの町とも言える。大学が一つの町のような広さで、学生はここにある寮に住む。赤い屋根にレンガ造りで統一された建物で毎日授業を受け、放課後は図書館の前にある芝生の原っぱで寝転び、夜は満点の星空を眺めながら敷地内を散歩する。そんな穏やかな学生生活が、脳裏に蘇ってきた。

ボルダーはとても小さな町だが、大自然に囲まれたその環境から、州内随一の健康志向の町として知られている。さらに現在は100%クリーンエネルギーの町を目指しており、町全体が環境に配慮した生活に取り組む先進的な都市でもある。標高が高いため、スポーツ選手のトレーニング地としても利用されている。

ボルダーの魅力といえば、住みやすい環境に加え、町の背後にそびえる岩山フラット・アイロン(FlatIrons)。山の側面にむき出しになった平らな岩肌からこの名がついたとされ、ハイキングや登山スポットとしても人気だ。酸素が薄いため、体力がないと登り始めてすぐに息切れしてくる。それでもしばらくトレイルを歩いて行くと、木々の間から町を一望できるスポットへとたどり着く。大学を中心に広がる町並みは、いつまでも眺めていたいと思わせるほどに美しい。

私がコロラドを好きになった理由の一つに、この地に住む人々がある。アメリカ全土を訪れたわけではないので、これはあくまで私の数少ない経験からの感想だが、コロラドで出会う人々はみな、心が澄んでいて底抜けに優しいと思う。誰に対してもフレンドリーで、ウェルカムな雰囲気が常に漂っているのだ。町を歩けば「やあ」「元気?」と、すれ違うたびに皆が笑顔で声をかけてくれる。こんなに素敵な町はないと、私はこの地に来るたび思う。

ロッキー・マウンテン国立公園は、さらに北西に向かったところにある。標高2000〜4000キロの高低差がある公園は清らかなコロラド川が源を発する場所であり、多くの野生動物や植物が生息する生命に溢れた公園だ。コロラドロッキーという言葉があるように、州を象徴する場所だと言えるだろう。

ドライブルートの両側には針葉樹林が広がり、突如開けた草原の奥には雪化粧のロッキー山脈がそそり立つ。さらに奥へと進むと湖やハイキングルートなど、見どころが多数点在している。ドライブやハイキングをすれば、ビッグホーンシープやエルク、クマなどさまざまな動物に遭遇することができるだろう。冬が近くなると、園内ではエルクが大移動するそうだ。通常なら町から遠く離れた人の踏み入れない地で行われる生命の活動が、このような人々の生活に寄り添った地で見られるというのは珍しい。

ロッキーマウンテン国立公園には、トレイルリッジ・ロードという園内でももっとも標高の高いエリアを走る道路がある。このあたりはツンドラ地帯で、木のない草原が広がっている。暖かい季節になれば色とりどりの高山植物が咲き誇り、生きとし生けるものに春の訪れを伝えてくれる。

私は春という季節が好きだ。冬の間じっと息を止めていた時間が動き出し、あらゆる生き物が目覚めの時を迎える、その瞬間を美しいと思う。コロラドロッキーは、太古から続く魅力に溢れたその瞬間を、限りなく原始の姿のままで見られるところなのではないだろうか。

旅行雑誌、情報誌の編集者兼ライター。人種や文化の違いに興味があり、世界中の国々を旅行しては、その地で見た美しい風景や人々、おもしろいと感じたものを写真に収める。