氷河が生んだ生き物の楽園
グレイシャー国立公園
- 2019.09.28
- モンタナ/Montana
モンタナ州の北部、カナダとの国境に接するエリアに広がるグレイシャー国立公園。ここは、カナダのアルバータ州からアメリカのニューメキシコ州まで南北に伸びるロッキー山脈のほぼ中央に位置する。約100万エーカーという広大な土地には672の湖、563の川、そして175の山が形づくる美しい峡谷や丘陵が広がる、アメリカ屈指の大自然だ。
この国立公園は、カナダのアルバータ州にあるウォータートン湖国立公園とともに類稀な自然美が評価され、1995年に世界自然遺産に登録された。国境など関係なく、一つの自然の営みとして捉えるべきという地元市民たちの働きかけのもと、「ウォータートン・グレイシャー国際平和自然公園」として世界で初めて誕生した国際平和公園なのだそうだ。
年間約300万人もの観光客を引き寄せるグレイシャー国立公園の魅力とは、一体何だろうか。
消えゆく氷河
グレイシャーとは「氷河」のこと。この国立公園は、その名の通り氷河によって現在の壮大な風景が形成され、今も活動し変化を続けている。氷河は、冬に積もる雪の量が夏に溶ける量を上回った場合に形づくられる。新たな雪が降るたびに下の雪が押しつぶされて氷の層となり、刻々と姿を変えていくのだ。この氷河の活動が大地を削り浸食することによって、峡谷や鋭く尖った山脈、湖など、現在の起伏に富んだ地形が生まれた。
グレイシャー国立公園が設立された1910年、ここには100以上の氷河が見られた。しかし2019年現在、氷河活動が確認されているのは26のみ。そして、それぞれの氷河のサイズも縮小を続けている。主な原因は、地球温暖化だそうだ。ある調査によると、2030年までに公園内のもっとも大きな氷河の活動が止まってしまうことが予想されている。地球の生成を語るこの貴重な資産をなくさないために、私たちに何ができるのかを考えていくことが今後の課題となるだろう。
ハイキングはグレイシャー国立公園の醍醐味
グレイシャー国立公園を訪れる観光客の約半数は、ハイキングを目的としているのだそう。それもそのはず、園内には151ものハイキングコースがある。すべて合わせると、その長さは約1200キロメートル。
園内に設置されたビューポイントからの景色はもちろん美しいが、表面に見えるものだけでなく、さらに奥へ進むことでこそ本当のありのままの自然が見られるというもの。園内には、気軽に歩ける初心者向けのコースから数日かけて歩く上級者向けのコースまで、さまざまなトレイルがある。車椅子用に舗装されたコースなどもあるので、体力や滞在期間などから自分に合ったコースを歩いてみるといいだろう。
Hidden Lake Trail(ヒドゥン・レイク・トレイル)
ローガン・パス(Logan Pass)と呼ばれるポイントは、公園を横断する舗装道路(Going-to-the-Sun Road )でもっとも標高の高い場所に位置している。ビジターセンターもあるこの地点を起点とするハイキングコースで人気なのが、Hidden Lake Trail。Hidden Lakeという湖まで、往復8.2 キロのコースだ。
この辺りは標高が高く、鋭くそびえる峰や高山植物、色とりどりの花など、変化に富んだ景色を楽しみながら歩くことができる。魅力の一つとなっているのが、一帯に棲むマウンテン・ゴート。真っ白な毛に覆われ、のんびりと草を食んだり日光浴をしたりする姿に癒されずにはいられない。
2.2キロ地点の見晴らし台からは、Hidden Lakeを上から見下ろすことができる。体力に自信のない人はここで引き返してもいいが、さらに先へと進めば湖畔まで降りることができ、湖に映り込む美しい自然を堪能できるだろう。
Grinnell Glacier Trail(グリンネル・グレイシャー・トレイル)
公園の北東、メニー・グレイシャー(Many Glacier)エリアにあるハイキングコース。往復約12キロのトレイルを歩いて、Grinnell Glacierと呼ばれる氷河の目の前まで到達する。かなり長いコースで起伏も激しいので、体力に自信がない人には難しいコースだ。ただし、途中でGrinnell Lakeというエメラルド色の湖を望めるビュースポットを通るので、そこを目指して歩くだけでも行く価値は十分あるだろう。
険しい山道を登り、最後の難関であるスイッチバックを突破すると、目の前には152エーカーの氷河とUpper Grinnell Lakeの素晴らしい光景が広がる。こんなに近くで氷河を見られる場所はほかにはないので、一生忘れられない経験になることは間違いない。
このほかにも魅力的なハイキングコースは数え切れないほどある。滝を見たいなら、セントメアリー湖(St. Mary Lake)へと流れ込むバーリング滝(Baring Falls)がおすすめ。Going-to-the-Sun Road沿いのサンリフト・ゴージ(Sunrift Gorge)というポイントからスタートするトレイルを歩いて、落差約7メートルの滝が見られる。また、公園最大の湖、マクドナルド湖(Lake McDonald)の周辺にもトレイルが多数ある。トレイル・オブ・シダーズ(Trail of the Cedars)は道が舗装されているので、車椅子でも気軽に散策が可能だ。ビジターセンターでスタッフに相談すれば、要望に合ったコースを教えてくれるだろう。
誰もがカメラマンになれる場所
どこを切り抜いても美しい景色が広がるグレイシャー国立公園では、誰が撮ってもプロのようなきれいな写真が撮れるはず。心に残る景色に出会ったら、パシャリと1枚残してみては。ただし、写真を取ることに夢中になりすぎないように。自分の目でしっかりと見て、心に焼きつけることが何よりの思い出になるはずだから。
Going-to-the-Sun-Road(ゴーイング・トゥ・ザ・サンロード)
グレイシャー国立公園を東西に横断する舗装道路。ここは、世界屈指の風光明媚なドライブルートだ。進むにつれて徐々に標高が上がり、目の前の視界も開けて行く。所どころにあるパーキングスペースは、ビューポイントである印。車を停めて美しい景色に酔いしれよう。St. Mary LakeのSun Point付近からは、湖に浮かぶ小さなWild Goose島を構図に入れた美しい景色が見られる。
Lake Mcdonald(マクドナルド湖)
公園内一の大きさを誇るLake Mcdonaldでは、風のない晴れた日に行くと背景の山脈が湖面に映り込む様子が見られる。おすすめの鑑賞スポットは、アプガー・ビジターセンター(Apgar Visitor Center)の裏にあるアプガー・ビレッジ(Apgar Village)だ。ここの湖岸から見えるのは、ちょうど湖の中央奥に山の峰々が並んだ構図。また、夕方には山と湖面が真っ赤に染まるロマンチックなサンセットも見られる。
ローガン・パス(Logan Pass)
Going-to-the-Sun Roadの中央付近に位置するLogan Passでは、6月下旬〜8月中旬にワイルドフラワーがそこかしこに咲き誇る。雄大な山々を背景に広がるのは、黄色のリリーや紫ヒメジオン、ピンクのミムラスなどの花の絨毯。植物図鑑を手に周辺を散策してみよう。ちなみにLogan Passの駐車場はすぐに埋まってしまうので、早朝に行くことをおすすめする。
氷河
何万年も前から地球を覆っていた氷河を間近に見られる場所はそうそうない。その数少ない一つがここ、グレイシャー国立公園だ。
公園の北東にあるメニー・グレイシャー(Many Glacier)と呼ばれるエリアは、その名の通り多くの氷河が残っている。ハイキングで目の前まで近づいて見られるのが、グリンネル・グレイシャー(Grinnell Glacier)。Lake Mcdonald付近からのトレイルを歩けば、スペリー・グレイシャー(Sperry Glacier)という氷河の鑑賞スポットもある。少し距離はあるがハイキングをしなくても見られるのが、ジャクソン・グレイシャー(Jackson Glacier)。Going-to-the-Sun Road沿いのLogan Passを過ぎたあたりにビューポイントがある。
野生動物を観察する
グレイシャー国立公園には、71種の哺乳類、276種の鳥類、24種の魚類、そして1132種の植物が生命を営んでいる。園内を散策する時は、注意深く周囲を見渡してみよう。
Logan Pass周辺では、マウンテン・ゴートやビッグホーン・シープの姿がよく見られる。また、公園の東側のエリアではグリズリーベアやムース、エルクなどが見られることも。そのほか、オオカミやウルバリン、マウンテンライオンなども生息しているが、彼らの姿を見ることはほとんどないだろう。
動物の姿を観察する際は、一定の距離を保つことがルールづけられている。あまり近づきすぎると攻撃される可能性があるからだ。動物の観察をしたいなら、遠くからでも観察できるように望遠鏡を持って行くことをおすすめする。
足を伸ばしてウォータートン湖国立公園へ
グレイシャー国立公園の東側のエントランスを出て、北へ1時間ほど車を走らせると、カナダのウォータートン湖国立公園へとたどり着く。グレイシャー国立公園と一体になった国立公園で、面積は小さいが美しい湖やハイキングを楽しむことができる。
広大なウォータートン湖のほとりには小さな町がある。ホテルやレストラン、ギフトショップなどが並び、落ち着いた別荘地のような様相だ。湖畔でのんびりと時間を過ごすのもいいし、ハイキングや水上アクティビティを楽しむのもいいだろう。
モンタナから行く場合は国境を越える必要があるので、必ずパスポートを持って行こう。
ハイキング以外にも、釣りやボート、ラフティング、キャンプなどさまざまなアクティビティを楽しめるグレイシャー国立公園。年間365日営業しているが、公園全体がオープンとなっているのは5〜9月の間だけ。冬の間は一部のエリアが閉鎖されるうえに雪が積もって運転も危ない。ただし、野生動物を見るためにオフシーズンに訪れる観光客も多いようだ。旅行の計画を立てる際は、事前に道路や施設の閉鎖状況を確認しておこう。
旅行雑誌、情報誌のフリー編集者兼ライター・フォトグラファー。人種や文化の違いに興味があり、世界中の国々を旅行しては、その地で見た美しい風景や人々、おもしろいと感じたものを写真に収める。世界遺産検定1級所持。
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