LAの名物カーチェイス

LAの名物カーチェイス

アメリカに来てからずっと感じていることが一つある。

ロサンゼルスは、カーチェイスの発生率がとても高い。だいたい1週間に1回は発生していると言っても過言ではないと思う。それぐらい、カーチェイスが日常茶飯事化しているのだ。

アメリカに来てすぐの頃、会社の同僚にローカルニュースのアプリを登録しておくといいよ、とアドバイスをもらった。なんでも、ロサンゼルスはカーチェイスや発砲事件、容疑者逃亡中などさまざまな事件が常日頃から起こっているので、こまめにニュースをチェックして周辺の出来事を把握しておいた方が身の安全、ということらしい。

私はそのアドバイスに従い、LA Times、ABC7LA、さらに全米ニュースに対応したVOA、ABC Newsなど、計5つほどのアプリを早速ダウンロードした。そんなにたくさん登録してもすべて見ないだろう、と思われるかもしれない。ご名答。いちいちアプリを開くの面倒で、登録したきりあまり見ていない。

ただ、便利だと思うのは、速報を受信するたびにスマートフォンのホームページにピコッと概要が表示されることだ。それを見て、どこどこで発砲事件が起こっただの、トランプ大統領がLAを訪問中だのと、居住エリアの情報が逐一入ってくる。興味深い記事や注意が必要そうな記事は、開いて詳細を読み込む、と言ったところだ。

さて、話が少し外れたが、カーチェイス。私はFacebookでもLAのローカルニュースをお気に入りに追加している。そのため、Facebookを開くたびに最新のニュースがライブ映像とともに表示されるのだ。そして早々にして、カーチェイスの発生頻度の多さに気づいた。私はほぼ毎日Facebookを開くのだが、5日に1回くらいはカーチェイスのニュースがアップされる。

もしも私が『ロサンゼルスでよく使う日常会話本』なる書籍を制作するなら、「ねぇねぇ、今すぐそこの405(フリーウェイ)でカーチェイスしてるらしいよ」というフレーズをぜひ加えたい。そのくらい、しょっちゅう起こる。

昨日の夕方にもFacebookを開いたら、まさにカーチェイスが発生したところだった。

ことの展開は、毎回ほぼ決まっている。ライブ中継は、容疑者が車でフリーウェイを逃走しているシーンから始まる。自分の車で逃走している場合もあれば、誰かから奪った車の場合もあるが、大体の確率で他人の車を奪った理由はくだらないものだ。犯人は警察に捕まるまいと、フリーウェイをびゅうびゅう飛ばして逃走する。時に近くの車に思いきりぶつかりながら、下道に降りた後もびゅうびゅう飛ばす。

アクセルを踏みっぱなしで信号も無視し、くねくねと住宅街を曲がって逃走を続ける。ときおり、ニュースを見て外に出てきた野次馬たちが映像に映り込む。そして追い詰められた容疑者は車を捨てて走って逃亡する。垣根を越え、芝生を突っ切り、悪あがきで走り続けるが、最後にはあっけなく警察に取り押さえられ、一件落着という感じだ。

これが、毎回発生するカーチェイスの一連のお決まりのスタイル。

だが、私としてはどうも解せない。なぜ犯人は決まって最後、車を捨ててみずからの足で走って逃亡するのか。車という最強の武器を捨て、自分の足に頼った時点で確実に捕まるだろう、と思う。しかし、容疑者は皆、期待を裏切らず、最後には絶対に車を捨てる。そんな彼らの姿を見て私は、乗り続けたほうが少しでも長く逃げられるのになぁ、と感じずにはいられない。まぁ、中継のヘリコプターが上空からロックオンしている時点で、もう逃げられないとは思うのだが。

そんな犯人の心の不思議は置いておいて、さすがアメリカと思うのが、一部始終を中継するアナウンサーだ。この日常的に起こる小さな事件を、彼らは完全に楽しんでいる。状況を解説するアナウンサーの声に、なんとなくウキウキしているような、笑いを含んだトーンが感じられるのだ。

カーチェイスがラストスパートに差し掛かると、実況の声もワントーン上がる。

「ヘイ、犯人が車を降りたぜ! 走る、走る、走る!  民家のドアを開けようとして……あ〜、そこは鍵がかかっているね。 隣の家は……ここもダメだ。さぁどうする⁉︎ あ〜っと、警察が追いついたぁ!」と、興奮した声で中継する。そして最後に容疑者に手錠がかけられてあえなく捕まると、「オゥイェァ! アッハッハッハー!」と爆笑。
そして、あのスピードはすごかったなぁとか、途中で犬が飛び出してきたけど引かれなくてよかったなぁとか、のんきに感想を述べて幕を閉じるのだ。

楽しんでいるのは、アナウンサーだけではない。Facebookでライブ中継が始まるやいなや、中継が終わるまで終始「いいね」の数が増え続け、ひっきりなしにコメントがアップされていく。ほとんどが、「イエス! また始まったね!」「これを待ってたぜ」といった、カーチェイスを心待ちにしている声だ。

日本ではありえないが、LAのカーチェイスは、ほんのひと時お茶の間を楽しませてくれるエンターテイメントと化している。これがアメリカンスタイルらしい。